2010年2月19日金曜日

2010/02/19 第10回勉強会

大東健太郎さん
(農業環境技術研究所・生態系計測研究領域)
「文献紹介+α」


○文献紹介
John Porter et al. 2009 (Ambio 38, 186-193) The value of producing food, energy, and ecosystem services within an agro-ecosystem

○+αの配布資料(PDFへのリンクです。)
1.生態系と生物多様性の経済学
2.企業のための生態系サービス評価 http://pdf.wri.org/corporate_ecosystem_services_review_jp.pdf


農業生態系サービスの貨幣価値化にTop-down式とBottom-up式があり、この文献 では、Costanza et al. 1997(Nature 387,253-260)にもとづくTop-down式の結果 (Table 2)と著者らが圃場試験を実施して取ったデータにもとづいて試算した Bottom-up式の結果を紹介している。
著者らは試験圃場にて、CFE(Combine food and energy)と称する農業体系(作物栽培+牧草栽培+圃場端に木を植えて燃料 生産)を実施し、いろいろデータを取って、パラメーター毎にお値段を決め、農 業生態系サービスを貨幣価値化した(Table 3)。さらに6つのシナリオを想定し、 EU規模で生態系サービスの貨幣価値を試算した(Table 4)。その結果、CFE体系 は、エネルギー投資に対する生態系サービスの産出効率が高い優れた農業体系で あり、現在EUが推進している政策は間違っていないことがわかった。という論文 でした。
この論文は、データの取り方が甘い点、パラメータのお値段設定がウ ソっぽい点などの欠点があるものの、エネルギー投資に対する生態系サービスの 産出効率を提示したというアイデアが良いというお話でした。

+αとして、生態系サービスを経済的に評価する為の2つの枠組みをご紹介いた だきました(上記配布資料)。

1の詳細は、西田智子さんによる以下の報告をご参照下さい↓
情報:農業と環境 No.114 (2009年10月1日) 報告書の紹介 http://www.niaes.affrc.go.jp/magazine/114/mgzn11408.html

2は、企業活動が生態系へ与える影響と受ける影響のグルグルを考えて経営リス ク管理をしようという試み。
永井孝志さん曰わく、ISO31000の経営リスクを最小 化するように全体の経営を最適化させるという考えと似ているとのことでした。
ISOとリスクマネジメント(ISO31000の概略)↓ http://www.jsa.or.jp/stdz/mngment/pdf/iso_risk.pdf


議論では、

☆このBottom-up式を日本でやれないか?
例えば畦畔の価値は、病害虫、水の涵養 能、生物多様性確保、美観など・・・、国スケールなら掛ける面積か?GIS情報 では畦畔は線で示されているが、面積換算する取り組みがある。

☆新たな生態系サービスを評価する場合、最初はコストがかかるものの、需要が このくらいになれば儲かるようになるといった評価が必要。

☆2の取り組みが普及したとして、同業者にタダ乗りする連中を取り締まる方策は あるか?

☆日本に安く輸出するために破壊されている途上国の資源に対し、破壊しないこ とにお金を払えば、生産量は落ちて国際価格は上がるので、関税をかけずとも国 産品を保護できるのでは?(rentseeking)

☆↑木材ならできそうだけど、農産物は難しいかも。

☆生物多様性の価値は、医薬品開発のための遺伝資源と一般に言われるが、本来 は、それが破壊されることで生物の進化が妨げられることにある。

☆生物多様性の価値を↑の視点から測るのは難しい。私たち研究者がやれるのは、 現在お金がつぎ込まれている政策による生物多様性への影響について科学的根拠 を示していくことではないか?

といったものがありました。


私たちの研究では、現状の政策が悪くないと言うために文脈依存的な結果だけを だすようなことがあってはならないが、政策提言のために粗々でも、それを認め た上で、国スケールの試算をするのはアリなのかなと思いました(感想)。

私たちの周辺にはそのためのデータは山積しているように感じます。アレが足りない コレはできないとウダウダ言うだけじゃなく、そろそろ経済学者と相談して何か 試算したいですね。



2010年2月12日金曜日

2010/02/12 第09回勉強会

池田浩明さん
(農環研・生物多様性研究領域)
「野生植物に対する水稲用除草剤のリスク評価と農薬の順応的管理」


新しく農薬を登録するには試験生物3種(藻類、甲殻類、魚類)を用いた急性毒 性試験が義務づけられている。生態学的見地から見ると、①試験生物種が少な く、生物界を代表していない。②室内実験なので実環境を再現できていない。③個体レベルの試験なので個体群レベルや群集レベルの影響を考えていない。とかい う問題がある。
そこを解決すべく、タコノアシ(通称:タコちゃん)のポット試 験データにもとづく個体群モデルでの検討を行い、「植物でも試験できるし、個 体群レベルへの影響も推定できるよ」という事を示した。
さらに農水路に生育す るエビモちゃんについていろんなところで時系列データをとった。その結果、 「エビモちゃんの被度と用水中の除草剤濃度がうまいこと対応し、いい感じに個 体群レベルのモニタリングができとるよ」という事を示した。
ともあれ、こうした生態学的データというのは常に実在性と偏在性のトレードオ フがつきまとう。それを解消するため、リスク評価→管理だけでなく、モニタリ ングによって実在性を付与し、そのモニタリングを全国でやることで偏在性を解 消するといった「ユビキタス順応的管理」を提案する。
イギリスではそういった システムがある。日本にも農環研が作ったRuLISというシステムがある。うまい こと活用して、データから施策シナリオが導出されるような国にせないかんですな。

というお話でした。

議論では、

☆定点個体群調査だけでは、撹乱で調査地が破壊された場合、時系列データが終 わってしまうので、集落レベルとかでモニタリングする方法があればいいのに。

☆有機農法でまとまっている集落についてモニタリングし慣行農法集落と比較す ることで、景観レベルの比較評価が可能では?

☆RuLISに、リモセン技術で土地利用区分を決めるようなシステムが加わると、モ ニタリングポイントを定めるのに有効なのでは?

☆生物多様性プロジェクトや全国生き物調査では、目標が明確でないので、施策 シナリオを導出できるようなデータの取り方がなされてない。

といったものがありました。


農薬取締法で定められた試験のデータと野外やメソコズムでの個体群レベル、群 集レベル、集落・景観レベルのデータを多少偏在的でもいいので対応させていけ れば、現行の試験を否定することもないし、メーカーさんの負担も増えないの で、そこ辺を繋ぐ生態学者の役割はでかいなと思いました(感想)。


以下、参考Web
○農薬取締法
○農環研 RuLIS
○イギリスのやつ



2010年2月5日金曜日

2010/02/05 第08回勉強会

赤羽幾子さん
(農業環境技術研究所・土壌環境研究領域)
「国内外の農作物中カドミウム(Cd)濃度の基準値策定およびCd吸収抑制技術について」


カドミウムは亜鉛に似ているため、人の口に入るとうっかりハチベエ的に吸収されて間違いを犯したりする(すごくたくさん摂ると腎機能障害になる:イタイイタイ病とか)。日本は諸外国に比べて土壌中のカドミ濃度が高いけど、農作物に含まれるカドミ濃度が、人に健康被害をもたらすレベルである場合は少ない。ただ、外国は土壌のカドミ濃度が低いためか、国際基準は「そんな低くせんでもいいがな!」レベルに設定されていたりする。その基準を日本に当てはめると土壌を浄化せねばならん農地がそこそこあることになる。そうした浄化技術には (1)化学洗浄法(2)ファイトレメディエーション(3)がっつりお取り替え 法(除去+客土) がある。というご発表でした。

議論は「基準値」について集中し、
☆基準値がリスクベース(通常生活でどのくらい摂取するか)ではなくハザードベース(各農作物中にどのくらい含まれるか)で決められているところに問題が あるのでは?
☆疫病調査の結果にもとづいて日本独自の基準値を設定してもでいいのでは?
つまり、健康被害が及ぶにはほど遠いリスクに対して多額の対策コストをかける必要があるのか?
とか、 他に「対策に関するリスクトレードオフ」的な考えから、
☆対策で客土されることが多いが、それに伴う土壌の移動が外来植物等の分布を拡大する可能性はないのか?
といったものがありました。
「基準値は変えられないので、基準値超えしてしまう農作物の割合を減らすための対策技術が必要なんです。」という赤はねーさんの潔さに感心すると同時に、基準値というものが政治的要因を含めた様々なジャンルの要因によって総合的に判断されている以上、私たち農業研究者は「科学的根拠」という要因が重要な地 位を占めることが出来るよう努めなければと実感しました(感想)。

以下、参考Web(発表にあった数値情報とかを見られます。)
○重金属リスク管理RP
○農水省:食品中のカドミウムに関する情報 http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/index.html
○>我が国のカドミウムの基準値について http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/kizyunti/country.html